ハイパーフレッシュナブルこてぃすと ~優しさの調和~ (2)
  どこの自治体でも基本可燃ゴミは「朝8時までに出して下さい」という決まりだが、この地区は夜10時もまわると既に2,3袋ポンと置かれていることが大半である。
 出勤時に出すのが一番理想的なのだが、私は寝起き同然の姿で外に出たくない、仁達は玄関を出てゴミ捨て場前を通らずに車通勤なので、思い描いたゴミ捨てが実行されることがほぼなかった。
 そのため週2回は夜中に抜き足差し足忍び足状態を保ちながらゴミを出しに行くのだった。
 今日もさっと置いてささっと帰ろうと、ゴミ袋を他の袋の横にぴたりと並べて置いた。
(これでよし、と…)
 私は不自然な置き方になっていないことを確認してから方向転換すると
「ちょっと」
 後ろから声をかけられた。
(もしや、ゴミ当番のおじさんかも…)
 怖々振り返ってみた先には、男性と思しき人が佇んでいた。身長は170センチ前後。
 5月も半ばだというのに、マフラーと一体になったオリーブ色のマントを着てフードをかぶっており、まるで異世界からの旅人のような格好だった。
 ゴミ置き場を照らすぼんやりとした明かりと、口元付近まで覆われていたマフラーのため断定はできなかったが、すっきりとした顔立ちに見えた。年の頃は20代後半から30代前半くらいだろうか。
 射抜くような琥珀色の瞳が印象的だった。
 私が固まっていると相手は口を開いた。
「どうして君が星の力を持ってるの?」
(星太郎の知り合いなんか?)
 いきなり龍星と魔力のことを尋ねられ、目の前の人物も同じ類なのだと瞬時に悟った。
 けれども、正体が判明せぬうちはそう易々と個人情報を教えるわけにはいかない。
「…あなたは誰ですか?」
「日和国弐区多種雑多取扱所(ひわこくにくたしゅざったとりあつかいどころ)フレリのハナ、楝紫蘇巴(おうちしそは)。龍星は部下だ」
(ひわこくにく…?)
 台詞の半分以上聞き取れなかったが、「フレリのハナ」という語に冷や汗がたらりと流れた。
「質問に答えてくれるかな?」
 紫蘇巴はやや苛立っている様子だった。
 魔界の要人に嘘をつけば即やられるだろうと、自己防衛のためにも身に起こった出来事を端的にまとめた。
「急に星…龍星がやって来て、ふとした拍子に頭をぶつけたら、彼の魔力が私に移動してしまったとかで今の状態です」
「何それ?」
 彼は気の抜けた声で笑うとすっと右手を伸ばし、人差し指で私の額にそっと触れた。
「あ、本当だ。しかも緩河じゃなくて君のまわりにあるようだね。ふんふん、ああ、君は星の妹の人間なのか」
 脳内読み取りでもしたのか、彼は現在の状況と私と龍星の関係を把握したらしい。
「うちの周りにある?」
「そう、人間には珍しいことなんだよなーこれはどうしたもんだろう…大事な時期っていう時に」
「今は家にいるので呼んできましょうか?」
 悩み始めた彼に下手なことを言って機嫌を損ねさせ攻撃される前に、龍星本人を連れてきた方が話が丸く収まると思い家に戻ろうとしたが、その必要はなかったようだった。
「紫蘇?」
 私は右に振り向くとフードをかぶった子供、龍星が目を丸くしながら立っていた。
「星(ほし)…だいぶ縮んだな。話はおおよそ聞いたけど」
「お前、地上界に何をしに来たんだ?」
 龍星はやや不機嫌そうな口調だった。
「すぐに戻るって言ってたのに遅いから様子見に来たんだよ。で、来てみたらとんでもないことになってるし」
「偶然そうなっただけだ」
「本当に?てっきりそういうふうに仕向けたのかと思った。連れて帰ろうかと思ったけど…」
「この姿で戻りたくない」
 龍星は項垂れた。紫蘇巴は動じることもなく吐息をもらした。
「そう言うと思ったよ。自力で魔力取り戻すことできるの?」
「色々考えていることはある」
「ふーん。実は1時間ほど前、緊急事態が発生して今捜査中なんだけど…」
「緊急事態?」
「緩河ストックの一部が爆破されて、自動的にストックの利用が停止しているんだ」
「それを早く言えよ」
「ごめんごめん。小さくなった星を見てちょっと動揺したんだ」
 紫蘇巴は申し訳なさそうに笑って頭を掻いた。
「犯人は紅深蝶(くみちょう)か?」
「星もそう思う?」
「他に誰がいるんだよ。自分で『ドカンと一発かましてやりますよ』とか言ってた異性人だぞ」
「ホントにできるとは想像してなかったからな。有言実行か…すごいな」
「感心してる場合か。俺の魔力が移動したのはその爆破の影響だろ。お前のストックは無事だったのか?」
「うん、あの2人の分と合わせて新たに認証申請を出したよ。下の子達にも伝えたけど、パスワードをかけていないフリーストックのみ消えてしまってた」
「持ち去られたのか?」
「どうだろう。紅深蝶が持っていたとしたら会ったらわかるはずだけど。こないだから何となく調子悪いんだよな~変な気でも当てられたのかな」
「おいおい大丈夫なのか?」
 龍星は眉を曇らせた。
「もしおれに何かあったとしても、そのときは星が頑張って何とかしてくれ」
「それは困る」
「ははは、冗談だよ。星の晴れ晴れしい姿を拝むまではしぶとく生きるつもりだからね」
「そんな時来なくていい」
「何にせよ、意外と身近にあるかもしれないよ」
 彼は遠くを見つめるような瞳だった。
「あ、そうだ。これ魔王様から預かってたんだった」
 紫蘇巴は突然思い出したのか、小さな封筒を龍星に手渡した。
「なぜ手書き?」
「さあ…昨日会ったけど、星のこと気にしてたよ」
「俺のことなんていいのに」
小さく呟いた龍星に紫蘇巴は彼の頭をぽんぽんと叩いた。
「まあ、地上界でのんびりするのもいいんじゃないか?」
「1ヶ月で死ぬぞ」
「それまでに取り戻せばいいだろ?」
「簡単に言うけどなあ…」
「っていうか、こっち来た時のワーネルは?」
「もう消えた。長居するとは思ってなかったからな」
「貴重なワーネルなのに…」
「お前もその貴重なワーネルで来るなよ」
「他に使う用事ってあんまりないし、週1でもらえるんだから別にいいじゃんか。予備あったら星に使えたのにな…でも、星なら省エネでワーネル作れるよな」
「同界ならまだしも、地上界から魔界へ飛ばすには相当な気力と労力が要る。試してはみるが…」
「星はできる子だから大丈夫」
「煽てても無駄だぞ」
 他人が入り込む余地なしの数年来の付き合いの会話だった。
「とにかく、紅深蝶の動向にも目を光らせておくよ」
「ああ、頼む」
「じゃあ帰るよ」
 紫蘇巴はマントをバサリと翻すとふっと姿を消した。
 2人のやり取りをポカンと眺めていた私は、龍星に耳慣れぬ単語の意味を尋ねた。
「ワーネルて何?」
「移動(ワープ)パネル、魔界での主な移動手段だ」
「ふうん。何かえらいことになってるようやけど…ひとまずここから去ろか」
 私は頭の中を整理しながら彼と家まで戻った。

 やけに長いごみ捨てから帰宅した私達を出迎えた仁達は至極心配顔だった。
「あと5分遅かったら僕も行ってたところやったよ」
「ごめん。星太郎の上司と出くわしてタイムリーな話をしてたん」
「また魔物の人が来てたの!?」
 彼は素っ頓狂な声を上げた。無理もない。
 短時間に魔物が地上に2人も現れるなんて異例の出来事にほかならなかった。
「魔力がうちに移った件、紅深蝶っていう異星人が緩河をドーンと爆破したらしくて、同じタイミングでうちらが頭ぶつけて魔力が移動してしもたんかもって。でもまだはっきりとはわからんから、今は紅深蝶に持ち逃げ疑惑がかかってて捜査中ってところ」
「異、異星人…はあ、うん。で、肝心の彼の魔力はどこに?」
仁達は魔物に加え、更にもっと得体の知れない異星人まで出現したことに当惑していた。
「うちの周り?にあるみたい…意外と近くにあるかもって。そうなん?」
 後ろにいる龍星に顔を向けた。
「格納できる空間があれば」
「格納っていうと箱とかか」
 私はサンダルを脱いで玄関に上がり、ダイニングとリビングを一通り見回した。
 部屋にはそこかしこに「箱」と呼べる収納ボックスがあるが、魔力が収まっていそうなフタ付きの入れ物は数える程度であり、怪しい気配などは微塵も感じ取れなかった。
「ないなあ~そんな簡単に見つかったら苦労せんか」
 諦めた私はリビングのソファに腰掛けた。後からやってきた仁達は
「焦らずゆっくり探していこう」
 労いの言葉をかけてくれた。
「うん」と頷き、彼の後ろにいた龍星を見やると、紫蘇巴に去り際に渡されていた手紙を読んでいた。
 その表情が次第に曇り、読み終えた後にはげんなりしていた。
「何て書いてあったん?読んでいい?」
 無言ですっと渡された手紙を受け取った。 仁達も横から覗いた。
「龍星へ 元気にしていますか?もうすぐ世代交代の時期で心中複雑だろうけど、納得できる選択をしなさい。あと、良い知らせをここ数年待っていますが、相手は見つかりそうですか?
人生200年とはいうけれど、そろそろ落ち着いて温かい家庭を築いてほしいなあと思っているのが事実です。 お前に任せておくと、生涯独身を貫き通しそうなので、最近はお見合いもどうかなと、こっそり知り合いの人々にあたっているところです。これも親心と思って大目に見てください。
父より」
 内容理解にしばらく時間がかかった。もっと緊迫感のある中身だと思ったら、9割方結婚を懸念する話だった。
(魔界にも結婚ていう概念があるのか。適齢期を過ぎても結婚せん息子を心配する親…種は違えど人間と変わらんのかあ。お父さんが魔王なら尚更…って魔王!?)
 私は最後の「父」という文字を見て仰天した。
「星太郎のお父さんって魔王やったん?」
「ああ…」
「1人っ子?」
 黙って頷いた彼に私は
「おおっ!王子!ぼんぼん!若旦那!御曹司!」
冷やかしてみたが彼のリアクションは薄かった。
「魔王の息子だからって特別待遇されるわけでもないし、顔を知らない奴だって多い」
「でも、継ぐのは星太郎なんやろ?」
「それも世襲じゃない。先代は全く関係ないフレリの1人だったし。だから今回も俺以外の候補者がなる可能性が高い」
「他の候補者って?」
「弐区からは紫蘇巴、参区からは…」
「ああ、ちょっと待って。弐区とか参区とか。魔界ってどういう組織体系なん?」
 私は基本の「き」から尋ねた。
「俺達の住む魔界は、朱茜(あかね)、呉須(ごす)、柚葉(ゆずは)、日和(ひわ)の4つの国に分かれている。これら全ての国を束ねるのが大魔王で、それぞれの国のトップが魔王だ。
各国内はまた4つの区にわかれ、区ごとに多種雑多取扱所(たしゅざったとりあつかいどころ)という管理組織が存在する。 多種雑多取扱所、通称『取所(とりしょ)』では幹部役員4名を中心としたフレリ達が勤務している。中でも弐区は管轄領域が広く、比較的人型の魔物が多い」
「ふむふむ。役所みたいなもんか…それで、参区の魔王の候補者っていうのは?」
「紅深蝶だ」
「紅深蝶?」
 私は先ほどの彼らの会話を思い出した。
「奴は3年前ボリボ星という星から来た異星人で、100歳の自称魔法使い『魔界に新たな風を起こし、クリーンな世界を作ります!』がスローガンとほざいていた」
「胡散臭さ~」
 自ら「クリーン」など言い張る者ほど信用ならぬものはない。
「実際魔力はあったし、新たな風を取り込むのはこれからの時代必要かもしれないと上が判断して今は参区の幹部として務めている。異星人のせいか変わったところはあるが、真面目に業務に取り組んでいるため、参区所ハナからも魔王からも信頼が厚いとの噂だ」
「会ったことは?」
「何度か話をしたことがある。外見性格ともに不気味な奴だ」
「ぶ、不気味?」
「常に薄笑いを浮かべ、陰険な目つき。紫蘇巴も他の幹部も薄気味悪がっていた」
「聞くからに怪しい人をよく迎え入れたなあ…って、緩河爆破されてしもたやん。こわー」
 私は抑揚のない声で言うと龍星はふうと息をついた。
「まあ、奴の手に渡ったのがフリーストックだけで済んだのが不幸中の幸いだ」
「フリーストックって何?」
「魔物であれば自由に使える魔力だ。通常、フレリではない魔物が使用している。設置箇所に行けば緩河に繋がり魔力を吸収することができる。個人が吸収できる力はわずかだが、魔力が弱かったり極端に消耗の激しい者達にとっては欠かせないものだ」
「無料LANみたいなもんか。紅深蝶は緩河爆破してフリーな魔力をどうするんやろ。紅深蝶は異星人なんやろ?異星人が魔力を欲しがるんかな」
「利用できる力を集めて自身の目的を成し遂げるためだろう。異星人の考えることなど見当もつかないからな」
 彼は床に座りこんだ。私はテーブル椅子を引いたが彼は目で拒否の意を示した。
「魔界を支配しようとしてるのかなあ~」
 椅子に座った仁達はぐっと伸びをした。
「それならありがたいが…」
「ありがたい?」
「この国の魔物達は支配だの統治だの、上に立つことにはまるで興味がないといっていいほど野心がなさすぎる」
「ええっ?『この世界を我がものにしてやるわ~ハッハッハ!』とかよく特撮作品に出てくる敵のボスが言ってるやん。ああいうのとは違うんか…」
「強力な魔王やフレリを倒す脅威は同界には滅多に存在しないからな」
「定着してるとそうもなるか…魔王って最終的にどうやって決まるん?」
「候補者の中で話し合いが多いらしいな。どうしても決まらない場合はくじ引きとか」
「くじ引きって運任せでいいんかい!まあ、公平感あるけども」
 私はずっこけそうになった。
 緩河ストックでハイテクシステムを駆使する一方、頂点を決めるのにくじ引きというアナログな方式にやや気が抜けた。
「誰もやりたがらない。だから通常は区のハナ達から選出される」
「ふーん。あの紫蘇巴って人も?」
「俺はあいつが継ぐべきだと思っている。昔から意欲があったし、他の心の動きが読める能力を持っているから統治者向きだろう。強い魔力に加え、指導力、信頼感も十分にある」
「魔王の要素はようわからんけど、落ち着きあって頼れそうな上司って感じしたかな」
「上司といっても同期でもあるが」
「それは同期の方が出世しましたパターン!?」
「長い付き合いになるな。俺がフレリに入ったのは紫蘇の思いつきだ」
「そういえば、星太郎のお母さんはフレリのリーダーやったんよな。龍月が生まれた時、使いとの子供ってことで責任追及されてその後は…」
「辞めたよ」
 当時の内容を思い起こしていると彼が先を続けた。
「それを密告したのが紫蘇だ」
「ええっ?30年前ってまだ子供やろう?」
「成人までは人間と成長速度はそう変わらない。16歳以上になると希望者は取所でフレリの研修を受けることが可能で、紫蘇は授業後も熱心に勉強していた。
あの日タイミング悪く現場を目撃してしまい、たまたま近くにいたフレリに伝え、彼らが二人を捕らえたと。本人は決まりに則った行為をしたまでだから咎めはしなかった」
「その時、星太郎のお父さんは?」
「魔王として多忙の日々を送っていたらしい。母が参区所のハナに昇進してからはお互い共有の時間をとるのが難しくなって、そのうちすれ違うことが多くなり、俺が10歳の時に離婚した」
「価値観の違いってやつか…」
「まあ…そんなものか。その後俺は母に引き取られたが、少しはフレリの仕事も知っておくべきだろうと母に勧められたのもあって、父には頻繁に会いに行っていた。
紫蘇巴と出会ったのはその5年後…15歳の時だったな。その頃、母は龍月の父(例の使い)と知り合った。最初は使いが相手など認めたくなかったが、包み隠さず正直に話してくれたし、笑顔も増えたからそっと見守ろうと思っていた。
でも、やはりいつかはバレるもので、それが龍月の生まれた日だった。魔王…父に尋ねても『母さんやお前が幸せならそれで良いんだ』と言うだけで本心はわからなかった」
 悲壮な顔をしているわけでもないのに、私はなんと声をかけていいのか思いつかなかった。
 ただ単に恋愛や結婚は面倒事だと諦めていたのでなく、両親の過去を間近で見てきているからこそ、 自身に置き換えた場合に希望を持てないと見出したのかもしれない。
「その後、紫蘇の行為を賞賛した当時の参区所の幹部達が魔王の許可を得て、奴をフレリの一員として迎え入れた。その10年後、弐区所の幹部に昇進した紫蘇に誘われて俺も所員になった」
「壮絶な過去やな…」
 周囲に漂うやるせない感。けれども彼は入り浸ることはなかった。
「もう過去の話だ。今の立場はそう悪くない。ただ、世代交代の話が挙がってからやたら紫蘇が後を継げと煩くてな。ずっと断っているが」
「へえ~えらいしつこいんやな。優れた能力とかでもあるの?」
「ない。他のフレリ達よりも多少魔力が強いかもしれないが、それだけだ」
「強い魔力か…あんまりそんなふうに見えへんな」
 大人の姿でもそれほど威圧感はなかったはず。まあ、魔力のない人間が魔力の大小を判断するのは至難の業だろう。
「魔力がそんなに要らんなら、ストックの中で振り分けたらいいやん」
「ストックでは魔物以外に魔力を振り分けるのは禁じられている」
「それでぱっと思いついたのがコードの間?うちに『魔法使いたくない~?』て甘い言葉で誘惑したわけやな」
「龍月に『もう少し魔力あったら研究はかどるのに』っていつか言われたんだよ」
「それでコードの間に?っていうか龍月に会ったん?可愛かったじゃろう」
 私は自慢げに微笑んだ。
 夢で会った彼女の姿は、黒髪で深碧色の瞳に透き通るような白い肌の綺麗な女の子だった。
「何を言っている?あれは魂の光だぞ」
「うちが会った時は人の姿してたのに…あ、夢逢石の影響か」
 一時的に魂の型が適合する者とのコードがつながる希少価値の高い石である夢逢石。
 実は石の中に「魔虫(まむし)」という生命力を奪う悍ましい虫がいて、何度も使用を繰り返していると死に至るおそれがあるおっかな石だった。
 けれども、ゼンマイが鋭利な爪で破壊してくれたおかげで手元には全てなくなった。
「交流あるんやなー星空にポストがあるとか言ってたもんなあ」
 私が呟いていると彼は
「所有者を変えず、龍月とお前を使用者に加えれば龍月も使えるだろうし」
 さらりと言ってのけた。
「はあ…そんな思いやりのある人になるなんて」
 私は涙を拭う真似をした。
「思いやりなんかじゃない。お互いの利害が一致しただけだ」
「てっきり死に際を求めてたのかと思ったわ」
「そこまで無責任じゃない。家族はともかく仲間に迷惑がかかる。それに地上界で最期を迎えるなんて嫌だ」
 冗談で言ったつもりだったのに、彼はやけにムキになって反論した。
「なんや、責任感はあるんやん。もっと甲斐性のない気分屋かと思ってた」
「随分ズケズケと言えるようになったもんだな」
「そう?仁達もそう思うやろ?」
 黙って私達の会話を聞いていた仁達は躊躇いながらも
「えっ?僕!?うーんと、自分なりのポリシーあるのはかっこいいと思うよ」
 得意のスマイル100パーセントで答えた。
「仁達は心が綺麗やわ」
 ここまでポジティブシンキングだと、悪口でさえも褒め言葉に変えてしまう能力に長けているのではないかと改めて恐れ入った。
「とりあえず、上も見てくるよ」
 私は席を立ち上がり、念のため2階にも曰く有りげな箱がないか確認しに行った。

星太郎制服  ワーネル