バルタンの舞
そよ風の"舞"は芸術であるのだが、どうしてこれが横断歩道をはさんだ両脇にあるのかナゾである。 下校中だったか、友達と、ここの横断歩道の信号を待っていた時である。 友達の、「これって、そよ風の"舞"って感じじゃないよなあ。」 という発言に、私はしばし「?」となった。 しかし、友達の視線の先をたどってみると、例の謎の芸術作品があった。

アルミニウムっぽい銀色の"そよ風"をイメージして作ったと思われる、よくある風のうねっ た形のものである。縦長で、突き立っているというか、正直言って対して素晴らしくもない つくりである。
アルミニウムだか、ステンレスだかは知らないが、その金属製物質は友達の言う通り、全く そよ風"というイメージがない。 横断歩道を渡った向こう側のブツは、先端が見事に折れていて、マヌケに見えた。

そんな"舞"が、少し都会を意識して作られたものなら、完全に勘違いしていると思われる。 日差しの強い日に、ここで待っているとこれに反射して、まぶしいったらありゃしないからだ。 しかも、ただでさえ狭い通路だというのに、これのせいで、更に推定10〜20cm狭くなっているのだ。

友達のつぶやきの約5秒後、ほへぇーと納得した私は、 「カニのハサミみたいやな…」 と、幼児発想で言ったつもりだったが、友達は、「さすが、文学的」と、さりげなく褒めてくれた。 文学的なのかそうでないのかはともかく、これは絶対にカニのハサミにしか見えなかった。

そよ風の"舞"なんという洒落た名前をわざわざつけなくても、はさみの"舞"ぐらいで十分よいのではないかと思う。 この出来事があってから、信号を待っている時は、これは本当は、カニのハサミにちがいな いーと思っていたのだが、それも嘘で実は、そよ風の"舞"はバルタンの星人の手かもしれ ない事に気づき始めた。 両側にあるという事は、手以下は地面の下に埋まっているのである。 犯人はウルトラマンしかいない。

芸術に魅せられたウルトラマンは、バルタン星人の戦いの時、一瞬のスキを狙ってバルタン 星人を生き埋めにしてしまったのである。 そうして何年かたった後、名もなき1人の老人がや ってきて、この老人がウルトラマンの遺志を継いで、そよ風の"舞"という のをベースに塗装やらなんやらして、そして現在に至るのである。その証拠に、手(ハサミ)の つけ根には、人工色で塗られている上、金属部分はミニそよ風っぽい形に切り抜かれている ところもあった。

この話が100%本当であれば、ウルトラマンは芸術のためなら手段を選ばないヒーローだが、 材料には経費をかけない、自然破壊もしない、年月も費やさないという別の意味で、素晴らしいヒーローである。 エコロジストと言ってもいいと思う。敵対していたバルタン星人も、ゴージャスな最期を飾られ、ウルトラマンに大感謝であろう。

でも、やっぱりどうせ残してくれるなら、原色のままがよかったなーというつぶやきが、今ではここで立ち止まる度に、聞こえるようで呪われそうである。 私は、風化させないようにというウルトラマンの"慈悲心"で、無理矢理事を片付けてしまって いるが、生き埋めは案外残酷なので、これもどうかと思った。
とにもかくも、決して注目のマトにはならないバルタンの"舞"を、私は少し哀れにも思いながら鑑賞しているのであった。
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