あの味噌汁
味噌汁を作ったのに
これはあの味噌汁ではない
台所で
ひたすらそれを作り直すけれど
どこかが違う

ああ、早く家に帰りたい

もうすぐ逢える
故郷の風
母の味


味噌汁が食べたいのに
ここにあの味噌汁はない
靄の中で
ひたすらそれを探し求めるけれど
どこにも見つからない

ああ、早く家に還りたい

二度と逢えない
故郷の香
母の味
安住希求
ベランダに一匹のダンゴムシ
箒を持ったままじっと見つめてみる
コンクリートの地を
にょそにょそにょそと這う彼

私が知っている彼らは
いつも湿った黒土の上

”どうしてここにいるの?”
問いかけた瞬間
彼はふっと足を止める
触覚の先っぽで固い地面をそっと
突っつき
再び前に歩き出した

彼の行く手をはばかる小さな溝
そこで干からび尽きた命は
彼にはどのように映っているのだろうか

明日も明後日も
彼らはここにやってくる
でも
どこまでも広がる灰色のじゅうたんは
彼らをあたためてくれはしない

私には彼らを還す術もなく
真っ白になってゆく彼らを
ただ塵取りの中におさめるだけ
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