アリ
今日はばあちゃん家でアリをぎょうさん見た。
黒いのではなく、小さくて赤茶色っぽい、おこぼれをいただくために生まれてきたようなアリである。

始めに発見した所は、台所の土間。
アリの異常な大量発生を見て驚きつつも、アリ達が列縦隊になって、流し下の戸棚に沿って土間を這う先を目でたどってみると、朝食べた焼きそこない握り飯の御飯粒が固まって落ちていた。 そこに一番アリが集っていて、中には御飯粒を遠慮もせずに持ち運んでいる者もいた。
私は”けしからん!”と思い、ご飯粒ごとアリをほうきで掃いて外に出してやった。そのまわりを這っているアリ達には、流しの洗面器に水を汲んで、ちょびちょび水をまいて足ですりつぶすのを5回ぐらいし続けて片付けた。
結構しぶとかった。

次に発見したのは、夕御飯の時。
さあ、食べよう!と思ったら、テーブルにはアリ、アリ、アリ。
皿の間を何十というアリが、せわしく這い回っていた。中には、皿の中にまで侵出しようとする奴もいたが、さすがに味噌汁に入ろうとする自殺行為者は1匹もいなかった。私は、”またか!!”と嫌々ながらも、アリ達をひとさし指でぷしっと押しつぶしてやっつけた。
しかし、かなり面倒な作業だったため、後半からは雑巾で、ばしばし疾風のごとくテーブルの下(土間)にはたき落としてやった。
小さいくせに意外と頑丈に出来ていた。ぶったまげたもんだ。
一通りはたき落として、ご飯を食べている間もテーブルのあしを登って、しつこくテーブルの上を動き回っていたため、私は、見つける度に即、必殺雑巾をしてアリ達を払いとばした。そのせいか夕御飯を食べた気がしなかった。

最後に発見したのは夜勉強していた時。
ふっと視界を隣の部屋の畳に移すと、その右端で、ちょこまかとどこかで見た動きを目撃した。 例のアリ達が、畳の上で息絶えている1匹の蚊のまわりにうじゃうじゃとたかっていたのである。
ビックリ仰天、お初にお目にかかりますだったが、何のためらいもなくティッシュで蚊を取り、アリは摘んでつぶしてやった。でも、ティッシュの使用面積のわりにアリが多かったので、最後の方は畳にこすりつけている感じだった。
かなり、やけになっていたと思われる。もしかしなくても、畳にアリのつぶれ死体が残っているかもしれない、ごめん、新しい畳さん。
3回もアリとの出会いと別れがあったわけだが、以前の出来事も入れると、4回になる。
 
2年ほど前、今日の夜と同じように仏壇の前の机で勉強していると、どこからともなく、見慣れないアリが2匹ノートに這い上がって来た。
“どこから来たのだろう?”と、アリ達の進行方向をたどっていくと、それは、仏壇に供えてある砂糖菓子までつながっていて、しかも、菓子のフタが開いていたため、中には数えきれない程多くのアリが、菓子にびっしりとくっついて美味しそうにかじっていた。 
私は、生まれて初めて見る光景に気持ち悪くなって、すぐに大声で母を呼んだ。
直感で、ばーちゃんを呼ぶと、全部つぶしたまんまで去って行くか、または、放っておく危険性があると私は悟ったのだろう。
思った通り、母と一緒に来たばーちゃんは驚きも怒りもしていなかった。こんな奴らが出現するのはいつもの事だということらしい。

……やっぱり“慣れ”とは恐ろしい。 こんなわけで、風変わりなアリ達が何十何百匹発生しようと、あせり感よりも、駆除感の方が先に働いてしまうようになってしまった。
けれど、こう何度も現れてくれると、だんだん始末するのが面倒臭くなってきて、しまいには腹がたち、必殺雑巾の効果が期待できなくなってきた。
それでも、他に方法がないので、その日は雑巾片手にアリ達と闘い続けた。洗おうとした雑巾には、アリ達の死骸がイヤというくらいこびりついていて、指でピンとはじかないと水に流れていかなかった。が、この勝負私の圧勝であった。

ばーちゃん家にいる蚊は数が多いが、大きいし、予告鳴きしてくれるので、このアリ達に比べたらすごくしとめやすい。アリ恐怖症にはならないと思うが、アリ達のたかりに“!!”という一瞬の時の静止は、必要不可欠なものだとわかった。
しかし、また、ばーちゃん家に行ったら、アリ達と格闘をしなければいけないのだろうか……。蚊よりゴキブリよりも、一番それを心配している。
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